先生、先生、ジグムント!

上京してもう10年経つ。その間に一番変わったのは本を読まなくなったことだ。

inu-kunは常に読書をしている。横になって本を読んでいるのが大概なのだが、
本を持ったまま寝ているときもしょっちゅうあるので、寝ているのか本を読んでいるのか解らない。
本を読みながらうとうとして、目が覚めたらまた続きを読んで、また眠ったりしている。
そういう彼の態度を横で見ていると、なんだか本を手に取ろうとする気が萎えてしまうのだ。
「どうあがいても彼の知力には叶わない」という焦燥感が高まってしまう。
彼は評論家なのでもともとそんなことくらいわかっているのだが、
それを目の前にしてしまうともう圧倒的に自分の無力さにさいなまれてしまうのだ。

それに輪をかけて、うつ病になってしまったことも本を読まなくなった大きな原因だろう。

上京前。いろんな本を読んで、29歳にしてやっと自分の自我の確立を完成させたと思っていた私は
音楽・映画・読書のトライアングルの中で思考をしていた。
そしてその考えを語り合う友人もいた。そしてさらに刺激を受けて、
新しい知識を得るために読書をしていたのだった。

それが、生活の変化によって、確立されていた自分のペースが崩壊した。

自我の物語が真っ白になっていったのだ。

うつ病もほぼ癒えかけて、現在は少しずつ読書ができるようになった。
きっかけは、菊池成孔の日記を読むようになってからだ。
彼は音楽家ゴダールとフロイドを愛している。
彼の考え方、感じ方、生活が私をインスパイアした。
いま、彼の「歌舞伎町のミッドナイト・フットボール」を読んでいる。
基本的に音楽について雑誌などに発表したものを集めて、今年の四月に自分が書いたものに対して
解説を書いている。(解説を書いている日記も含まれている)

彼の音楽と本で、リハビリができるようになったのだ。ジグムント先生の遠い弟子に感謝!